丸ノ内線の新宿御苑前で弁護士をしている石原です。
今回は、遺産分割協議の効力についてのご質問にお答えいたします。
折角まとまった相続のお話が、あとから無効であると分かって、また揉めてしまうことがないようにご注意ください。
1.ご質問
被相続人が遺言を残さずになくなりましたが、家族全員で話し合い、みなが納得できる分け方で遺産分割協議書を作成しました。
家族全員で話したほうがいいと思い、相続権がない被相続人の子の配偶者も話し合いに参加し、書面に署名したところ無効の恐れがあると指摘されてしまいました。
相続人ではない人が参加した遺産分割協議は無効となるのでしょうか?
2.遺産分割協議の当事者
遺産分割協議は、共同相続人全員でしなければなりません。
その他に、包括受遺者も相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)ため、当事者となります。
相続人から相続分を譲り受けた人も当事者となります。
相続人全員が関与していない場合は、その遺産分割は無効となります。
では、これとは逆に、このご質問のように相続権を有していない人が関与した場合はどうなるでしょうか。
(未成年者や、判断能力が衰えてしまった方がいる場合については、別の記事で解説いたします。)
3.裁判例
同じようなことが争点となった裁判例があります(大阪地方裁判所平成18年5月15日判決)。
この事例は、相続人として遺産分割に関与した方が、後に養子縁組無効と判断され、相続人でないことが確定してしまったため、遺産分割協議自体が無効ではないか争われたものです。
裁判所は、次のように判断しています。(判決を一部区切るなどしています)
(1)共同相続人でない者が参加して遺産分割協議が行われた場合であっても、共同相続人の全員が参加して当該協議が行われたものと認められる以上、直ちに当該協議の全部について瑕疵(かし=傷、欠点、欠陥)があるということはできない。
(2)むしろ、共同相続人でない者に分配された相続財産のみを未分割の財産として再分割すれば足りるとするのが、当該協議に参加した者の通常の意思に合致するとみられ、また、法律関係の安定性や取引安全の保護の観点からすると、いったん遺産分割協議が成立し、これを前提とする相続財産の処分等がされた後に当該協議の効力を常に全面的に否定することは、できる限り避けるのが相当である。
(3)共同相続人でない者が参加して行われた遺産分割協議は、原則として、当該共同相続人でない者の遺産取得に係る部分に限って無効となる。
(4)ただ、当該共同相続人でない者の遺産取得に係る部分に限って無効となると解するときは著しく不当な結果を招き、正義に反する結果となる場合には、当該遺産分割協議の全部が無効となると解するのが相当である。
どのような場合が、全部無効と解すべきかについては
(5)当該共同相続人でない者が取得するとされた財産の種類や重要性、当該財産が遺産全体の中で占める割合その他諸般の事情を考慮して、当該共同相続人でない者が協議に参加しなかったとすれば、当該協議の内容が大きく異なっていたであろうと認められる場合を例示しています。
4.まとめ
今回のご質問で、どのような分割内容になっているかは分かりませんが、相続人でない方が協議に参加しただけでは、協議全体が無効になるわけではありません。
その方が相続することになった財産を、共同相続人全員でどうやって分けるか話し合うことが出来れば、それで足ります。
ただし、その方が相続することになった財産があり、その方を抜かして話し合えば大きく異なった分割になっているような場合は、全体が無効となる可能性もあります。
折角まとまった遺産分割が無効とならないように、遺産分割をする場合は、一度専門家にご相談ください。
当事務所は、税理士と共同で相談を受けることができますので、二次相続の相続税も考慮した分割をご提案することもできます。