よくある質問

2019.01.22更新

丸ノ内線の新宿御苑前で弁護士をしている石原です。

 

今回は、遺産分割協議の効力についてのご質問にお答えいたします。

折角まとまった相続のお話が、あとから無効であると分かって、また揉めてしまうことがないようにご注意ください。

 

1.ご質問


 

被相続人が遺言を残さずになくなりましたが、家族全員で話し合い、みなが納得できる分け方で遺産分割協議書を作成しました。

家族全員で話したほうがいいと思い、相続権がない被相続人の子の配偶者も話し合いに参加し、書面に署名したところ無効の恐れがあると指摘されてしまいました。

相続人ではない人が参加した遺産分割協議は無効となるのでしょうか?

 

2.遺産分割協議の当事者


 

遺産分割協議は、共同相続人全員でしなければなりません。

その他に、包括受遺者も相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)ため、当事者となります。

相続人から相続分を譲り受けた人も当事者となります。

相続人全員が関与していない場合は、その遺産分割は無効となります。

では、これとは逆に、このご質問のように相続権を有していない人が関与した場合はどうなるでしょうか。

(未成年者や、判断能力が衰えてしまった方がいる場合については、別の記事で解説いたします。)

 

3.裁判例


 

同じようなことが争点となった裁判例があります(大阪地方裁判所平成18年5月15日判決)。

この事例は、相続人として遺産分割に関与した方が、後に養子縁組無効と判断され、相続人でないことが確定してしまったため、遺産分割協議自体が無効ではないか争われたものです。

 

裁判所は、次のように判断しています。(判決を一部区切るなどしています)

(1)共同相続人でない者が参加して遺産分割協議が行われた場合であっても、共同相続人の全員が参加して当該協議が行われたものと認められる以上、直ちに当該協議の全部について瑕疵(かし=傷、欠点、欠陥)があるということはできない。

(2)むしろ、共同相続人でない者に分配された相続財産のみを未分割の財産として再分割すれば足りるとするのが、当該協議に参加した者の通常の意思に合致するとみられ、また、法律関係の安定性や取引安全の保護の観点からすると、いったん遺産分割協議が成立し、これを前提とする相続財産の処分等がされた後に当該協議の効力を常に全面的に否定することは、できる限り避けるのが相当である。

(3)共同相続人でない者が参加して行われた遺産分割協議は、原則として、当該共同相続人でない者の遺産取得に係る部分に限って無効となる。

(4)ただ、当該共同相続人でない者の遺産取得に係る部分に限って無効となると解するときは著しく不当な結果を招き、正義に反する結果となる場合には、当該遺産分割協議の全部が無効となると解するのが相当である。

どのような場合が、全部無効と解すべきかについては

(5)当該共同相続人でない者が取得するとされた財産の種類や重要性、当該財産が遺産全体の中で占める割合その他諸般の事情を考慮して、当該共同相続人でない者が協議に参加しなかったとすれば、当該協議の内容が大きく異なっていたであろうと認められる場合を例示しています。

 

4.まとめ

 


今回のご質問で、どのような分割内容になっているかは分かりませんが、相続人でない方が協議に参加しただけでは、協議全体が無効になるわけではありません。

その方が相続することになった財産を、共同相続人全員でどうやって分けるか話し合うことが出来れば、それで足ります。

ただし、その方が相続することになった財産があり、その方を抜かして話し合えば大きく異なった分割になっているような場合は、全体が無効となる可能性もあります。

 

折角まとまった遺産分割が無効とならないように、遺産分割をする場合は、一度専門家にご相談ください。

当事務所は、税理士と共同で相談を受けることができますので、二次相続の相続税も考慮した分割をご提案することもできます。

 

投稿者: 石原晋介法律事務所

2017.03.15更新

新宿、四谷エリアで弁護士をしている石原です。

 

今回は、無料相談会やネットでの相談でよく聞かれる「専門家を入れずに、自分たち家族だけで遺産相続(遺産分割)をするにはどうすればいいのか?」という疑問にお答えいたします。

 

第1 遺産分割について


 

 

法律では、遺産分割について形式が決められていません。単純に「いつでも、その協議(話し合い)で、遺産の分割をすることができる」(民法第907条第1項)と書かれているだけです。

日本の民法では、意思表示や法律行為で書面を必要とするものは、特別にそのように規定しています。

例えば、ほとんどの契約は意思表示が合致すれば成立する中で、保証人になる場合は、「保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない」(民法第446条第2項)と、いわゆる保証契約書を作らなければいけないと規定しています。

家族関係でいえば、結婚や離婚は「婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。」(民法第739条第1項)、「前項の届出は、当事者双方および成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。」(同第2項)、「(婚姻の届出)の規定は、協議上の離婚について準用する」(同法第764条)と、届け出が必要と明確に定められています。

つまり、法律に形式が定められていないため、遺産分割協議は本来は書面でする必要はないのです。

しかし、遺産分割の結果に基づいて、土地や家の登記を変更するため、預金の解約をして払い戻しを受けるには、一定の様式が求められていますので、以下では遺産分割協議書の基本的な書き方などを解説いたします。

 

 

第2 遺産分割協議書の基本的な様式


 

 

 

1.遺産分割協議は、相続人全員で行ってください。なかなか連絡が取れないとか、どこにいるのか分からない人がいたり、あるいはご高齢で自分で判断ができない人がいるからと、その人たちを抜かして協議をしても、協議は有効とはなりません。

どこにいるのか分からない人については、できるだけ調査をして、場合によっては不在者財産管理人を家庭裁判所に選任してもらってください。ご自分で判断できないような人は、成年後見人などを家庭裁判所に選任してもらってください。

また、しっかりと戸籍を調査し、前妻との間に子どもがいないこと等を確認してください。

 

2.協議した相続人全員が、しっかりと署名し、実印で押印して下さい。認め印で済ませるのではなく、印鑑登録をして印鑑登録証明書も取得してください。

印鑑登録証明書は通常3ヶ月以内のものが必要となりますので、できれば遺産分割協議書に押印する直前に取得してください。また、協議書が有効期限内に押印されたことを示すためにも、協議書に日付を忘れずにつけてください。

 

3.表示の仕方についても注意が必要です。

不動産の特定は、登記簿に記載されている通りの所在地で記載してください。住所とは異なることも多いので、住所で記載するのではなく、しっかりと登記を確認して記載してください。

登記を取得すると、実は被相続人以外の人と共有状態にあることが判明することもありますので、面倒くさがらずに取得してください。

預貯金も、銀行名、支店名、口座種別、口座番号、お亡くなりになった日の残高を確認して、できるだけ特定して記載してください。残高が通帳に記載されているものと異なっていたり、同じ支店にいくつか口座があったということもあり得ますので、しっかり銀行に確認し残高証明書を出してもらいましょう。

 

4.財産や相続人が多く、一枚に収まらないときは、ページとページの間に楔印を相続人全員で押してください。

または、製本して製本テープ状に全員で押印することもありますが、間のページを抜かしたり、あとから挿入したりできない方法を取ってください。

 

遺産分割協議書の形式としては、以上の各点に気を付けていただければ、概ね大丈夫です。

内容については別の機会に解説いたします。

 

 

投稿者: 石原晋介法律事務所

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